前歯が噛み合わない「開咬」とは?TAD(アンカースクリュー)で改善|やまぐち歯科こども歯科
前歯が噛み合わない「前歯部開咬」とは?
TAD(アンカースクリュー)で改善できる最新矯正
「お子さまが、うどんやラーメンを前歯で噛み切れていない」
「“サ行”や“タ行”の発音が、なんとなく舌足らずに聞こえる」
「ふと見ると、いつもお口がポカンと開いている」
こうした症状に心当たりはありませんか? もしそうなら、それは「前歯部開咬(ぜんしぶかいこう)」という不正咬合のサインかもしれません。
前歯部開咬は、見た目の問題だけでなく、お子さまの発音や咀嚼(そしゃく)機能にも深く関わるため、早期の対応が重要です。
札幌市豊平区・月寒のやまぐち歯科こども歯科では、日本矯正歯科学会認定医によるTAD(矯正用アンカースクリュー)を活用した、成長期のお子さまのための専門的な矯正治療を行っています。
1.「前歯部開咬」とは? なぜ札幌の子どもに注意が必要?
前歯部開咬(Open Bite)とは、奥歯はしっかり噛み合っていても、上下の前歯が噛み合わず、常にすき間が空いている状態を指します。奥歯で「イー」と噛んでも、前歯が閉じません。
主な原因は「癖」と「呼吸」
前歯部開咬の主な原因は、遺伝的な要因もありますが、それ以上に後天的な「癖」が大きく影響します。
- 舌癖(ぜつへき): 食べ物を飲み込む時や話す時に、舌を前歯の裏側に押し付けたり、歯と歯の間から舌を突き出したりする癖(舌突出癖)。
- 口呼吸(こうこきゅう): アレルギー性鼻炎や扁桃腺肥大などで鼻が詰まり、口で呼吸する習慣。
- 指しゃぶり: 3歳を過ぎても続く長期間の指しゃぶり。
特に「口呼吸」は、前歯部開咬の大きな引き金となります。口で呼吸をすると、舌は空気の通り道を確保するために低い位置(低位舌)に下がってしまいます。本来、舌は上顎の天井部分を押し上げることで、上顎の健やかな成長を促しますが、低位舌ではその力がかかりません。結果として上顎の幅が狭くなり、歯並びが乱れ、前歯が噛み合わなくなってしまうのです。
札幌の冬は、暖房による室内の乾燥や、寒暖差による鼻炎で鼻が詰まりやすく、口呼吸(お口ぽかん)が悪化しやすい環境です。成長期のお子さまがこの癖を放置すると、骨格や歯列に影響が固定化されてしまうため、特に注意が必要です。
2. なぜ治りにくい?従来の矯正治療の限界
前歯部開咬は、単なる「歯のズレ」ではなく、舌の使い方(筋肉)と顎の骨格的な成長(骨格)が複雑に関わるため、矯正治療の中でも難易度が高い不正咬合とされてきました。
従来の治療法では、以下のような限界がありました。
- ゴムかけ(顎間ゴム): 患者さま本人の協力(毎日長時間ゴムをかける)が不可欠で、継続が難しい。
- ヘッドギアなどの装置: 奥歯がさらに伸びてしまい(臼歯の挺出)、かえって開咬が悪化する副作用のリスクがあった。
- 外科矯正: 永久歯が生え揃い、顎の成長が終わった後(18歳以降)に、顎の骨を切る外科手術を併用する必要があるケースが多かった。
特に骨格的な要因が強い場合、成長期に有効な手を打てず、将来的な外科矯正を待つしかない、というケースも少なくありませんでした。
3. 治療の鍵「TAD(アンカースクリュー)」とは?
こうした従来の治療の限界を打ち破る可能性を持つのが、TAD(Temporary Anchorage Device)、通称「矯正用アンカースクリュー」です。
TADは、チタン製の非常に小さな(直径1.5mm、長さ6〜8mm程度)医療用スクリューです。これを矯正治療中に一時的に顎の骨に植立し、歯を動かすための「絶対的な固定源」として使用します。
TADで「奥歯を骨に押し込む」
前歯部開咬の治療では、このTADを奥歯(臼歯)の近くに植立します。そして、TADと奥歯をゴムなどで連結し、奥歯を骨の方向に**「圧下(あっか)=押し込む」**力をかけます。
なぜ奥歯を押し込むと前歯が閉じるのでしょうか?
奥歯が骨に押し込まれると、その分、下顎が前上方に回転します(オートローテーション)。下顎が回転することで、噛み合わなかった前歯が自然に閉じてくるのです。
- 外科手術(骨切り)を行わずに、骨格的なアプローチが可能になる。
- 奥歯を圧下するという、従来の装置では困難だった歯の移動ができる。
- 患者さまの協力(ゴムかけ等)に頼る部分が減り、治療計画の精度が上がる。
- 治療期間の短縮や、抜歯を回避できる可能性が高まる。
日本矯正歯科学会が2023年に発表した「前歯部開咬診療ガイドライン」でも、TADの使用は永久歯列期における開咬治療の選択肢として位置づけられています(エビデンスの蓄積がまだ新しいため“弱い推奨”ですが、臨床的な有効性は広く認められています)。
4. やまぐち歯科こども歯科の「TAD+MFT」併用治療
当院では、このTADによる骨格的なアプローチと、開咬の根本原因である「癖」を治すMFT(口腔筋機能療法)を組み合わせることを非常に重要視しています。
TADは「結果」として開いている歯並びを閉じさせることができますが、原因である「舌癖」や「口呼吸」が残ったままでは、治療後に必ず後戻りしてしまいます。
TAD(骨格・歯並び)とMFT(筋肉・癖)、この両輪で治療することこそが、前歯部開咬治療の成功の鍵です。
当院での治療ステップ
- 精密診断: セファログラム(頭部X線規格写真)分析で、なぜ開咬になっているのか(歯が原因か、骨格が原因か)を診断します。同時に、舌機能検査や鼻呼吸のチェックも行います。
- MFT(口腔筋機能療法)の開始: まずは根本原因である舌の癖や口呼吸を改善するため、専門のトレーニングを開始します。正しい舌の位置(スポット)や飲み込み方を覚えます。
- TAD植立+矯正装置装着: 局所麻酔下でTADを植立します(痛みはほとんどなく、1本数分で完了します)。その後、矯正装置(ブラケットやアライナー)を装着し、TADを固定源として奥歯の圧下を開始します。
- 仕上げ・保定: 前歯が閉じ、正しい噛み合わせが得られたら装置を除去します。開咬は後戻りしやすいため、保定装置(リテーナー)の使用と、MFTの継続で、正しい筋肉の使い方が定着するまで見守ります。
5. 札幌の保護者様へ:早期発見と「MFT」の重要性
お子さまに以下のようなサインが見られたら、早めにご相談ください。
- 前歯で食べ物(麺類など)を噛み切れていない。
- 「サ行」「タ行」の発音が舌足らずに聞こえる。
- 食べ物を飲み込むときに、舌が前に出てくる。
- 意識しないと、いつも口がポカンと開いている。
- 転ぶと前歯を打ちやすい(出っ歯も併発している場合)。
特に6歳~10歳頃の成長期であれば、骨格もまだ柔らかいため、MFTで癖を治し、必要に応じてTADや矯正装置で顎の成長を正しく導くだけで、将来的な抜歯や外科矯正を回避できる可能性が大きく高まります。
札幌の冬は鼻炎が悪化し、口呼吸が定着しやすい時期です。鼻炎が疑われる場合は、当院と連携する耳鼻咽喉科をご紹介し、鼻の治療と並行して「お口の癖」を治していくことが非常に重要です。
6. TAD(アンカースクリュー)に関する よくある質問
Q1. TADを骨に入れるのは痛いですか?
A. 植立する前に、歯医者さんで行うむし歯治療と同じ局所麻酔(注射)をしっかり行いますので、処置中の痛みはほとんどありません。処置は1本あたり5~10分程度で終わります。麻酔が切れた後、1~2日ほど違和感や軽い痛みが出ることがありますが、痛み止めで十分コントロールできる程度です。
Q2. 子どもにも使えますか?
A. はい、使用できます。骨の成熟が進む12歳頃(中学生以降)から安全に使用が可能です。当院では、レントゲンやCTで骨の厚みや神経・歯根との位置関係を精密に診断した上で、お子さまに負担のない最適な場所とタイミングを判断します。
Q3. TADを使えば、必ず外科矯正を回避できますか?
A. 軽度〜中等度の骨格性開咬であれば、TADとMFTを併用することで、外科矯正を回避できる可能性は非常に高くなります。しかし、下顎の変形が極めて強い場合など、重度の骨格性開咬では、成長が終了した後に外科矯正が最適と判断する場合もあります。まずは精密診断でお口の状態を正確に把握することが重要です。
Q4. スクリューは体に残るのですか?
A. いいえ、TADは矯正治療が終了し、歯並びが安定したら除去します。除去する際も簡単な処置(麻酔は不要な場合もあります)で済み、抜いた後の穴は数日で自然にふさがり、骨も元通りに治癒しますので、痕が残る心配はありません。また、使用するスクリューは滅菌された使い捨て(単回使用)ですので、衛生面でもご安心ください。
Q5. スクリューが途中で取れたりしませんか?
A. 非常に稀ですが、植立した部位の骨の密度が低かったり、舌や頬の粘膜が当たって緩んだりすることで、自然に脱落することがあります。その場合も痛みはありません。脱落した場合は、再度消毒して別の部位に植え直すか、計画を変更しますのでご安心ください。
Q6. TADやMFTは保険適用されますか?
A. 「顎変形症」と診断され、外科矯正を前提とした治療の場合などを除き、TADを用いた矯正治療やMFT(口腔筋機能療法)は、基本的に保険適用外の自費診療となります。当院では、MFTも矯正治療のプログラムに組み込み、トータルでサポートしています。
7. まとめ:前歯部開咬は「癖」と「骨格」の両面からアプローチを
前歯部開咬は、見た目の問題だけでなく、お子さまの発音、呼吸、咀嚼機能といった「生きる力」にも影響します。そして、その治療は「歯を並べるだけ」では不十分です。
TAD(アンカースクリュー)で歯と骨格を効率的に動かし、同時にMFTで根本原因である舌の癖や口呼吸を改善する。この「骨格」と「筋肉(癖)」の両面からのアプローチこそが、治療を成功に導き、後戻りを防ぐ最短ルートです。
札幌の環境では、冬の乾燥や鼻炎による口呼吸が癖になりやすいからこそ、早期の介入が有効です。お子さまの将来の健康のために、認定医による専門的な診断と治療をお勧めします。
やまぐち歯科こども歯科では、
日本矯正歯科学会認定医・歯学博士のダブル体制で、
成長期のお子さまに最適な矯正治療(TAD・MFT併用)を行っています。
「うちの子、もしかして?」と思ったら、お気軽にご相談ください。
この記事の著者
山口 治奈 先生
やまぐち歯科こども歯科 小児歯科・矯正歯科担当。
歯学博士・日本矯正歯科学会認定医・日本口腔筋機能療法学会 認定医。三児の母。
MFT(口腔筋機能療法)を重視し、歯並びの根本原因からの改善、そして「お口育て」を通じたお子さまの健やかな発育をサポートしている。(→ スタッフ紹介へ)
この記事の監修
歯科医師 山口 優 先生
やまぐち歯科こども歯科 院長・歯学博士・日本矯正歯科学会認定医。三児の父。
外科矯正の経験も豊富で、TADを用いた効率的な矯正診断・治療計画の立案を担当。予防歯科の観点からも、口呼吸がむし歯に与えるリスクについて警鐘を鳴らしている。


