口が開いてしまう?MFT(口腔筋機能療法)で整える呼吸と歯並び
MFT(口腔筋機能療法)とは何か?
MFT(Myofunctional Therapy/口腔筋機能療法)は、舌や唇、頬、咀嚼筋といった口まわりの筋肉を正しく機能させるためのリハビリテーションです。歯並びの乱れや口呼吸、舌の癖といった症状は、単なる歯の問題ではなく、筋肉の使い方に起因することが多くあります。MFTはそれらの根本にある機能異常を改善し、自然な呼吸、嚥下、発音、姿勢へと導きます。
近年、子どもたちの間で「口がぽかんと開いている」「発音が不明瞭」「食べこぼしが多い」「いびきがある」などの症状が増えています。これらの背景には、低位舌(舌が本来より下がっている)、口唇閉鎖不全(唇を閉じる力が弱い)、異常嚥下(飲み込みの仕方が正しくない)などが関係しています。MFTはそれらの症状を評価し、改善に向けて段階的なトレーニングを行う治療です。
欧米ではすでに歯科・耳鼻科・小児科などの医療現場で標準的に取り入れられており、日本でも近年その有用性が認識され始めています。特に小児期からのMFTは、成長過程における自然な発達を促すため、矯正治療と並行して実施されることが多くあります。
なぜMFTが必要なのか?
歯並びや噛み合わせの不正は、多くの場合「遺伝だから仕方がない」と考えられがちですが、実際には舌の位置や唇の力、呼吸の仕方など「日常の癖」によって大きく影響を受けています。MFTが必要とされる理由は、まさにその“癖”を改善するためです。
例えば、口唇閉鎖不全(口がぽかんと開いている状態)は、唇の筋肉が弱く、自然と口呼吸になってしまう状態を指します。これが続くと、口腔内が乾燥して虫歯や歯肉炎のリスクが高まり、さらにはアレルギーや感染症の原因にもなります。また、口が開いたままの姿勢はあごの骨格成長にも悪影響を与え、将来的な出っ歯や受け口、開咬(前歯が噛み合わない)などの不正咬合につながります。
さらに、舌の位置が常に下がっている「低位舌」は、上あごの正常な成長を妨げます。本来、舌は上あごの天井部分(スポット)に接しているべきであり、この刺激によって上あごは横に広がっていきます。舌が常に下がっていると、上あごが狭くなり、歯が並ぶスペースが不足し、歯列不正を引き起こします。
飲み込み(嚥下)の仕方にも問題があるケースが多く、舌で前歯を押して飲み込む癖があると、前歯が前方に傾き、出っ歯の原因になります。これらの症状は、単なる悪い癖ではなく「筋機能障害」であり、放置しても自然には治りません。MFTは、これらの症状に対して専門的な評価を行い、個別のプログラムで正しい筋肉の使い方を指導します。
子どもの成長と口腔機能の関係
人間の成長は、骨格・筋肉・神経系が連携して発達していきます。とくに幼少期においては、噛む・飲み込む・発音するといった口腔機能が、顔貌形成や呼吸機能、姿勢バランスにまで関与していることがわかってきています。
例えば、離乳食から常食へと移行する時期に、舌の動きが未発達なままスプーンを口の中へ差し込んでしまうと、舌が正しく使われず、嚥下(飲み込み)の癖が形成されます。また、食べ物をあまり噛まないまま飲み込む食習慣や、柔らかい食事ばかりを好む傾向も、口腔機能の発達を妨げます。
姿勢も関係しており、猫背やうつむき姿勢の子は、舌が自然と下がってしまいます。これが慢性化すると、舌が上に上がらない状態が固定化され、正しい飲み込みや鼻呼吸が困難になります。口呼吸になることで、酸素の取り込みが不十分になり、学習時の集中力や睡眠の質にも影響を及ぼすことが知られています。
MFTを早期に取り入れることは、単なる歯列矯正のためだけでなく、お子さまの健やかな発育全体をサポートする意義があります。やまぐち歯科こども歯科では、成長発達のステージに応じたアプローチで、お子さまに無理のない方法でMFTを指導しています。
MFTが対象とする具体的な症状とその兆候
MFTは「歯並びを整えるための補助的な体操」と誤解されがちですが、実際には筋肉と機能のトレーニングを通じて、歯並びや骨格、呼吸、発音、嚥下など、幅広い問題の改善を目指す専門的な療法です。ここでは、MFTが対象とする代表的な症状と、それに気づくための具体的なサインについて詳しく紹介します。
1. 口唇閉鎖不全
「いつも口が開いている」「寝ているときに口呼吸をしている」といった状態は、口唇閉鎖不全と呼ばれます。これは、唇の筋力が不足していることで、無意識のうちに口が開いてしまう状態です。常に口が開いていると、口腔内が乾燥しやすくなり、虫歯や歯肉炎、さらにはウイルス感染のリスクも高まります。また、見た目の印象や顔貌にも影響を及ぼし、長期的には出っ歯や開咬の原因になることもあります。
2. 舌突出癖・低位舌
飲み込むときに舌が前に出る「舌突出癖」、もしくは舌が常に口の底にある「低位舌」は、どちらも歯列不正の大きな要因です。特に、舌が正しい位置(上あごのスポット)にないと、上あごの成長が不足し、歯が並ぶスペースが足りなくなります。これは出っ歯やガタガタの歯並び(叢生)、開咬などを引き起こす原因になります。
3. 異常嚥下(嚥下時の癖)
正しい飲み込みでは、舌が上あごに押しつけられ、口唇や頬の筋肉はほとんど使いません。しかし、異常嚥下があると、唇を強く閉じたり、頬を使って押し込んだりする動きが見られます。これにより前歯を内外から圧迫する力がかかり、歯列の乱れが起こりやすくなります。
4. 発音の不明瞭さ
「サ行」「タ行」「ラ行」が聞き取りにくいと感じるお子さまには、舌の位置や動かし方に問題がある場合があります。これはMFTの対象となるケースで、発音指導とあわせて舌の機能トレーニングを行うことで改善が期待できます。
5. 歯列矯正後の後戻り
せっかく矯正治療で歯がきれいに並んでも、MFTで舌や口の使い方を修正しておかないと、治療後に再び歯が元の位置に戻ってしまう「後戻り」が起こりやすくなります。これを防ぐためにも、機能面のトレーニングが欠かせません。
やまぐち歯科こども歯科では、こうした症状を丁寧に評価したうえで、必要に応じてMFTを提案しています。「発音が気になる」「口が開いているのが気になる」といったご相談からでも構いませんので、気になる症状があればぜひご相談ください。
MFTと小児矯正の併用効果
MFT(口腔筋機能療法)と小児矯正は、互いに補完し合う関係にあります。歯並びを動かす矯正装置だけでは、歯列を乱す原因である口腔機能の癖まで改善することはできません。一方で、MFTは筋肉の使い方を整えることで、歯列矯正の効果を高め、後戻りを防ぐ役割を果たします。ここでは、両者を併用することで得られる具体的なメリットについてご紹介します。
1. 矯正治療の効果が出やすくなる
口唇閉鎖不全や低位舌などの癖がある状態では、矯正装置を使っても歯にかかる力が不均等になり、歯の動きが計画通りに進まないことがあります。MFTによって口腔周囲筋を正しく使えるようになると、歯が動く環境が整い、矯正治療がスムーズに進むようになります。
2. 治療後の後戻りを予防できる
矯正治療が終了しても、舌の位置や嚥下の癖が変わっていない場合、歯列は再び乱れてしまう可能性があります。MFTで機能面を改善しておくことで、治療後の歯並びを長期的に安定させることができます。特に前歯の位置は、舌の力や唇の圧に影響されやすいため、MFTとの併用は非常に有効です。
3. 顎の発育が促進される
舌が正しい位置(スポット)にあることで、上顎が左右にしっかりと広がり、歯がきれいに並ぶスペースが確保されます。また、口をしっかり閉じる力がつくと、下顎の位置も安定し、顔のバランスが整いやすくなります。これは、将来の抜歯リスクや外科的治療の回避にもつながります。
4. 全身の健康にもプラスの効果
口呼吸から鼻呼吸へと移行できると、アレルギー症状や風邪を引きにくくなったり、睡眠の質が向上したりと、全身の健康状態にも好影響を及ぼします。また、正しい舌の使い方が身につくことで、発音や食事、姿勢といった日常生活全般がより快適になります。
やまぐち歯科こども歯科では、MFTと矯正治療を一体として捉え、機能と形態の両面からお子さまのお口の健康を支えています。単に「歯を並べる」だけでなく、「正しい使い方を身につける」ことが、将来の安定した咬合と健康につながると考えています。
ご家庭でできるMFTトレーニング例
MFT(口腔筋機能療法)の成功には、家庭での継続的なトレーニングが欠かせません。歯科医院での指導だけではなく、日常生活の中で毎日少しずつ実践することで、筋肉の使い方が自然に習慣化されていきます。ここでは、やまぐち歯科こども歯科でも推奨している、ご家庭でできる基本的なMFTトレーニングをいくつかご紹介します。
1. 舌スポットトレーニング
舌の先を上あごの「スポット」と呼ばれる位置(前歯のすぐ後ろ)に置く練習です。1回10秒を1日5セットなど、短時間でできるので習慣化しやすいです。鏡を見ながら確認すると、より効果的です。
2. リップトレーニング
口をしっかり閉じる力を高めるために、風船ふくらましやストローでの吸引練習、口を「いー」「うー」と動かす運動を行います。食事前や入浴時など、日常の中に取り入れやすいタイミングを見つけると継続しやすくなります。
3. 鼻呼吸の促進
普段から鼻で呼吸することを意識づけるだけでも、口呼吸の改善につながります。口を閉じて静かに鼻から吸い、ゆっくり鼻から吐く練習を繰り返すことで、自然な鼻呼吸が身につきます。
4. 嚥下(飲み込み)の練習
舌をスポットにつけたまま唾液や水を飲み込む練習です。慣れないうちは口の周りに力が入ったり、舌が前に出たりしやすいので、最初は鏡の前で確認しながら行います。
5. 発音練習との併用
サ行やラ行が苦手なお子さまには、発音練習と合わせて舌のトレーニングを行うと効果的です。舌先の位置を確認しながら発音するだけでも、筋肉の動きが意識できるようになります。
トレーニングの継続には、「楽しくできる」ことが何よりも大切です。やまぐち歯科こども歯科では、シール台紙やトレーニング記録表など、モチベーションを保ちながら取り組める工夫もご用意しています。保護者の方の声かけや応援が、お子さまのやる気を引き出す大きな力になります。
MFTは大人にも効果がある?成人MFTの考え方
MFT(口腔筋機能療法)は、子どもだけのものではありません。実は、大人にも高い効果が期待できるトレーニングであり、年齢を問わず多くの方に活用されています。舌癖や口呼吸、嚥下の癖などは、成長過程で定着してしまった場合、成人になっても続いていることが少なくありません。こうした癖を見直すために、MFTは非常に有効な手段となります。
1. 大人の口呼吸とそのリスク
仕事中や就寝中に口が開いている方は、知らず知らずのうちに口呼吸が習慣化している可能性があります。これにより、喉の乾燥や口臭、睡眠の質の低下、疲れやすさ、さらには歯周病のリスク増加など、さまざまな健康問題が引き起こされます。MFTにより、鼻呼吸を習慣化させることで、これらの問題の改善が期待できます。
2. 舌癖や嚥下癖による歯列の後戻り
過去に矯正治療を受けた方の中には、「歯がまた動いてきた」「出っ歯が戻った気がする」と感じている方も少なくありません。これは、舌の位置や飲み込みの癖が変わっていないためです。大人でもMFTを行うことで、正しい舌の使い方や嚥下方法を習得し、歯列の安定を図ることができます。
3. 発音や滑舌へのアプローチ
プレゼンテーションや接客など、人前で話す機会の多い方にとって、発音の明瞭さは大切な要素です。サ行やラ行が不明瞭になる原因は、舌の位置や筋肉の使い方にあることが多く、MFTで改善が期待できます。大人でも、正しい舌の動きを習得することで、発声の印象が大きく変わることがあります。
4. 顎関節症や食いしばりへの応用
ストレスや姿勢の乱れによって、顎関節症や食いしばりを起こす方も増えています。MFTで舌の正しい位置や口腔周囲筋のバランスを整えることで、顎にかかる負担が軽減され、顎関節の動きがスムーズになることもあります。
やまぐち歯科こども歯科では、大人の患者さまにもMFTを提供しています。スマートフォンを活用したセルフトレーニング支援や、短時間でできるトレーニングメニューのご提案など、忙しい毎日でも継続しやすい工夫をしています。年齢に関係なく、「自分の癖を見直したい」「健康的な口元を手に入れたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
MFTの効果が出るまでの期間と注意点
MFT(口腔筋機能療法)は、装置によって歯を動かす矯正治療とは異なり、「習慣の改善」や「筋肉の再教育」を目的としたトレーニングです。そのため、すぐに目に見える効果が出るわけではなく、継続的な取り組みが重要です。ここでは、効果が出るまでの一般的な期間と、MFTを成功させるためのポイントを解説します。
1. 効果の実感までにかかる期間
MFTの効果が現れるまでの期間は、個人差がありますが、一般的には3か月〜6か月ほどが目安とされています。早い方では1か月程度で「口が閉じやすくなった」「舌が上に上がるようになった」といった変化を感じることもありますが、定着には一定の時間が必要です。特に長年の癖が定着している場合は、より長いスパンでの取り組みが必要です。
2. 1日数分の積み重ねがカギ
MFTは、1回30分の集中トレーニングを週に1度行うよりも、1日5〜10分のトレーニングを毎日継続する方が、はるかに効果的です。筋肉や神経の記憶は反復によって形成されるため、短時間でも「毎日続ける」ことが成果に直結します。
3. 習慣化のための工夫
トレーニングを習慣づけるためには、生活の中に自然に取り入れる工夫が重要です。たとえば「朝の歯みがきの後に舌トレーニングをする」「お風呂でリップトレーニングをする」「寝る前に鼻呼吸の確認をする」といったルールを設けると、忘れずに続けやすくなります。
4. 家庭でのサポートの重要性
特にお子さまの場合、ご家庭での声かけや励ましが、継続の大きな支えになります。「今日は何のトレーニングをやった?」「できたね、すごいね!」といったポジティブなコミュニケーションが、モチベーションを高めます。やまぐち歯科こども歯科では、保護者の方へのサポート指導にも力を入れています。
5. 無理せず楽しむことが成功の秘訣
MFTは、歯列矯正のような物理的な痛みを伴うことは少なく、むしろ「身体をコントロールする感覚」が得られる楽しいトレーニングです。最初はうまくできなくても、無理をせず、焦らず、楽しみながら続けることが、最大の成功ポイントです。
短期間で劇的な変化を求めすぎず、毎日の小さな積み重ねが、数か月後に大きな成果となって現れます。やまぐち歯科こども歯科では、そうした日々の努力が報われるよう、継続しやすい環境づくりときめ細やかなサポートを大切にしています。
よくある質問(Q&A)
Q1. MFTは何歳から始められますか?
A1. 一般的には5歳前後から始めることが多いですが、癖の程度や発達段階に応じて、それ以前でも対応できるケースがあります。まずはお気軽にご相談ください。
Q2. トレーニングは毎日しなければなりませんか?
A2. はい、基本的には毎日5〜10分程度の練習を継続していただくことを推奨しています。短い時間でも毎日の積み重ねが大きな効果につながります。
Q3. 家庭でうまく練習できない場合はどうしたら?
A3. 保護者の方が一緒に取り組んであげると効果的です。当院ではトレーニング用の記録シートやシール表などもご用意しています。継続の工夫もお任せください。
Q4. 大人でも効果はありますか?
A4. はい、成人でもMFTは有効です。口呼吸や舌癖、滑舌の問題、歯列の後戻り予防など、幅広い目的で活用できます。
Q5. 矯正治療と一緒に受けるべきですか?
A5. できれば矯正と並行してMFTを行うことが理想的です。歯を動かすだけでは解決できない「機能の癖」を改善することで、治療の効果が高まり、後戻りのリスクも減ります。
まとめ
MFT(口腔筋機能療法)は、歯列矯正や見た目の改善のためだけでなく、「正しく噛む」「きれいに発音する」「楽に呼吸する」「姿勢を整える」といった、人が本来もつべき機能を取り戻すための大切な治療です。とくに成長期にあるお子さまにとっては、将来の健康や顔貌のバランスにも大きく影響するため、早期からの取り組みが推奨されています。
また、成人の方にとっても、舌癖や口呼吸などの見直しは、睡眠や集中力、滑舌など日常生活の質向上にもつながります。装置を使う矯正治療と、身体の機能を整えるMFTは、どちらか一方ではなく、両方をバランスよく取り入れることで相乗効果を発揮します。
やまぐち歯科こども歯科では、MFT専用の評価シートやトレーニングプログラムを用意し、一人ひとりに合わせた指導を行っています。「矯正の効果を最大限に引き出したい」「後戻りを防ぎたい」「お子さまの癖が気になる」そんな方は、まずは無料相談をご利用ください。機能から支える矯正治療で、笑顔と健康を未来につなげていきましょう。
参考リンク
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